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第22話 侯爵夫人にはならないけれど②

Author: なつめ
last update Petsa ng paglalathala: 2026-08-04 06:40:45

「応接間ではなく」

「え?」

「庭の東屋にして」

 言ってから、少しだけ息を吐いた。

 侯爵邸の中の部屋は、どうしても前世の空気を呼び込みすぎる。

 沈黙の食堂。

 白い寝室。

 冷えた廊下。

 整いすぎた客間。

 どこもかしこも、思い出が静かすぎて息が詰まる。

 外のほうがいい。

 たとえまだ春の冷えが残っていても。

 風があって、空が見える場所のほうが、たぶん今はましだ。

「かしこまりました」

 エマが小さく頷く。

 そのまま彼女は部屋の中のカーテンを少し開けた。

 白い光が広がり、窓辺に活けられた淡い花がかすかに揺れる。

 昨夜まではその光すら痛かったのに、今日はちゃんと光として見えた。

     *

 昼前、東庭の東屋にはまだ冷たい風が通っていた。

 屋敷の裏手にある小さな庭は、社交用に見せる表庭ほど派手ではない。低木と、季節の草花、それに石造りの細い小道。奥には小さな池があり、春先の薄い空を鈍く映している。東屋の屋根へは白い蔓がまだ葉をつけきらず、骨組みだけが繊細な影を落としていた。

 椅子と小卓が置かれ、暖を取るための小さな炭火鉢が用意されている。
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